信じられないことですが、今まで当たり前のようにチャンネルを合わせれば見られていた、スポーツ中継の番組が一斉に姿を消す。そんな日常の変化が今急速に進みつつあり、スポーツ界にとって大きな転換期となっています。

サッカーでは、日本代表がワールドカップ出場をかけたアジア地区最終予選のアウェー戦が、テレビ中継で見られなくなりました。22年カタール大会出場を目指す日本代表ですが、地上波などテレビ中継で見られるのはホーム戦のみ。アウェー戦はアジアサッカー連盟とホームを含む全試合契約を結んだ映像配信サービスDAZN(ダゾーン)でしか視聴できなくなってしまったのです。

サッカーだけではありません。プロ野球もセ・リーグでは巨人が19年からDAZNと主催試合の配信を含む包括提携契約を結びました。当初は単年での契約だったが昨年、新たに5年契約に延長し直したと発表されました。DAZNとしては最終的にNPBとの一括契約を望んでいるはずです。オープン戦、CS(クライマックスシリーズ)、日本シリーズそしてWBC、日米野球まで、プロ野球関連の全コンテンツを手にすることで野球ファンの総取りを狙っているはず。その先には高校野球など、アマチュアも念頭にあるのではないでしょうか。

プロ野球、サッカーのような人気の競技ならまだ良いです。しかし規模も小さく露出が少ない競技の場合、死活問題になる可能性もあります。例えばバスケットボールのNBAやアイスホッケーのNHLといった世界最高レベルの試合がBS、CS放送を含めテレビではほとんど見られなくなりました。長年、BS放送でアメリカンフットボールのNFLを中継していたNHKも今季は放映権を取得できず、放送していません。欧州サッカーも同じような流れから楽しめる機会は激減しています。このままではお金を払って配信を中心に楽しむか、もしくは一部のスポーツしか見られない環境になりかねないのです。

僕自身はそれほど熱心にスポーツ中継を見る方ではありません。テレビでたまたま放送されていたら見る程度です。それでも一度見始めたら面白くて、熱狂的に見てしまいます。スポーツ中継は良質な放送コンテンツです。家族や友人はテレビの無料スポーツ中継を楽しみにしている人が多いです。一方ではお金があってネット配信に詳しい友人は、DAZNと契約して月々2千円あまりを払い、殆どのスポーツをネットで見ています。僕はそもそもスポーツ中継をさほど楽しみにしていないので、DAZNのお客さんにはならないでしょう。

ここに分断が起きます。DAZNやWOWOWがスポーツ中継の放映権料をつり上げて独占契約をしてしまうために、今までの民放やNHKの地上波テレビでは、手を出せない巨額となります。その結果テレビの画面からスポーツ中継が消えるのです。熱心なスポーツファンはDAZNに入って存分に中継を楽しむ。その一方で見ない人は全く見なくなるという現象が起きます。

スポーツ中継はマニアックなファンにのみに支えられる構図となります。それは一件Win-Winに見えます。競技団体やプレイヤーには安定した高額の収入が約束され、熱心なスポーツファンにとっては、納得のいくサブスクリプションサービスの料金で全試合を楽しめる。コンテンツ不足に悩まされるテレビ局以外は、だれも損しないシステムのようです。

しかし大きな落とし穴があります。テレビのスポーツ中継には、今までそのスポーツをよく知らなかった人も、スポーツ中継を見ることをきっかけとして以降ファンにしてしまう、という効果がありました。ルールなどもよく知らないし、さほど興味は無かったけど、テレビでたまたま盛り上がっていたので見た。そしたら案外面白かったのでファンになった。というパターンです。いつぞやのにわかラグビーファンが日本に増えたのと同じ原理です。

こうして様々なスポーツの認知度が上がり、新規で観客の数も増えていくのですが、これはテレビならではです。DAZN方式では既にファンである人のみを囲い込み、これからスポーツ観戦に興味を持つ人には門戸を開いていません。これはそのスポーツにとって、新規競技人口の増加や観客数の増加のチャンスを、みすみす失うことを意味しています。

プロスポーツにとって、これは大きなリスクです。観客は常に流動的です。今、熱心に応援してくれている年配のファンは、やがて高齢化し、消えていきます。同時に新しいファンが生まれ続けてくれることは、そのスポーツ業界の将来を考えたときに必須の要件です。長い目で見たときに、スポーツ中継をテレビから奪い取り、ネット配信のみにしていくDAZNのやり方では、スポーツ人口が縮小していく危険性があります。

あらゆるメディアでテレビ離れが起き、ネット配信にとって変わる今、DAZNがスポーツ界を独占するのもある意味理にかなっています。しかしどのスポーツのファンでも、最初からファンだったわけではありません。たまたま知るきっかけがあって、ファンになっているのです。その意味で新規顧客獲得のためのPRとして、テレビ放送も今まで通り続けていった方が、スポーツ界にとってメリットがあると思うのですが。

どうも競技団体のみなさんは、目先の利益に目が眩み、DAZN一辺倒になっているような気がして不安です。若い人たちが新しいスポーツと触れ合うきっかけを減らすのは、スポーツ文化としても逆行していると言わざるを得ません。

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