天皇陛下「生前退位」のウワサと真相
7月13日、NHKは今上天皇明仁陛下が、遠くないうちに生前退位したいという、ご意向をお持ちであることを明らかにしました。
天皇陛下が数年内に天皇の位を皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を宮内庁の関係者に示され、天皇陛下自身が広く内外にお気持ちを表わす方向で調整が進められていることが分かりました。今後、皇室典範の改正なども含めた国民的な議論につながっていくものとみられます。
天皇陛下は82歳と高齢となった今も、数多くの公務を続けていますが、宮内庁の関係者によりますと、「憲法に定められた象徴としての務めを十分に果たせる者が天皇の位にあるべきだ」と考え、今後、大きく公務を減らすなどしてまで、天皇の位にとどまることは望まれていないということです。そうしたなか、数年内に天皇の位を皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を宮内庁の関係者に示され、皇后さまをはじめ、皇太子さまや秋篠宮さまも受け入れられているということです。
これを受けて、天皇陛下自身が広く内外にお気持ちを表わす方向で調整が進められていて、関係者の1人は「天皇陛下は象徴としての立場から、直接的な表現は避けられるかもしれないが、ご自身のお気持ちがにじみ出たものになるだろう」と話しています。
天皇の退位について、皇室制度を定めた「皇室典範」には規定がなく、天皇陛下の意向は皇室典範の改正なども含めた国民的な議論につながっていくものとみられます。
これに対し、宮内庁は全面否定し、各マスコミは誤報だと騒いでいます。確かに宮内庁が正式に「そのような事実はない」と言っているので、ここでは陛下の生前退位はウワサであるとしておきましょう。ではなぜこのようなウワサ(あるいはリーク)が、参院選の直後というタイミングで発表されたのでしょうか? またその意図や信ぴょう性については、どう考えるべきなのでしょうか?
象徴天皇である今の天皇陛下は、通常は宮内庁を通してご発言や、ご公務にあたられます。宮内庁を通さない意思表示は、原則できないことになっているので、このように陛下がご私見を述べられた場合、宮内庁がまだ認めていないという意味で、慌てて否定することは珍しくありません。皇太子さまのご結婚に関する報道の際も、ご本人側の本意と、宮内庁側の発表が食い違うケースは多々見られました。
生前退位の信ぴょう性はどうでしょうか? NHKが火をつけ朝日が火消しに回ったと言われていますが、僕はそんなに大誤報ではないと思っています。そもそもマスコミの間では天皇陛下が生前退位をお望みであることは、誰でも知っていることであり、今に始まったウワサではありません。宮内庁の判断で、公開するか非公開にするかを、決めているだけなのです。天皇陛下は僕の母親と同年齢ですが、その歳になると急激に体力気力が変化してきます。誰もがさもありなん、と思うでしょう。この情報をリークすれば、一般の国民の多くは「82歳という高齢になられて今後もご公務を続けられるのは気の毒だ。お身体を大事に早く楽になって頂きたい」という感情を持つことになるでしょう。例えそれが、宮内庁が否定するウワサであったとしても。
狙いはそこにあったのです。ウワサであっても一度リークしてしまえば、すでにもう人々の心の中には、しっかりと刻み込まれています。一旦刻み込まれたら、二度と消えることはありません。そしてこの報道は、遅かれ早かれ宮内庁も認めざるをえなくなり、ウワサが事実になる日が、刻々と近づいているのです。
なぜこの今というタイミングなのか。一つの見方は参院選に圧勝した政権が、NHKを利用して世論を皇室典範の改正に向かわせようとしたという見方です。憲法改正と皇室典範改正は同時に行うのは、何かとスムーズにことが運ぶので都合が良い。むしろ皇室典範の改正で国民の興味を引っ張り、それによって憲法改正が勢いづけば、それにこしたことはない。
もう一つの見方は、憲法改正のスケジュールを遅らせるために、先決課題として皇室典範の改正という議論を、このタイミングで陛下ご自身が熟慮してご提案なさった、という見方です。年齢が年齢ですから、憲法改正よりも優先して議題に上ることになり、安倍政権の立てているスケジュールが、大幅に狂ってきます。まさに畏れ多いことですが、ご意向をリークした直後の宮内庁や政府の慌てぶりを見ると、こちらの見方の方が有力な気がします。天皇陛下ご自身がリーク先としてNHKを選ばれたと解釈できます。天皇陛下には、直接的な国政への関わりが認められていません。そんな中での苦肉の御策であるとしたら、非常に感慨深いことです。
遠からず宮内庁は陛下のご意向を認める発表をすることでしょう。皇室と宮内庁は必ずしも仲が良くありませんが、陛下は刻一刻とお歳を召していらっしゃり、不老不死ではありません。宮内庁はあくまでも皇室の管理をしているマネージャー的存在であり、秘密主義なので公式発表が大幅に遅れることは珍しくないのです。おまけに皇室典範には生前退位の規定がなく、このまま退位されると次の皇太子がいない、つまり徳仁親王の次の皇位継承者が、皇太弟として秋篠宮殿下になるのか、悠仁親王になるのか、はたまた女性天皇を認めて愛子さまになるのか、モヤモヤとした状態のまま徳仁親王が即位してしまうことになります。皇太子不在はありえません。ここは皇室典範の改正に早急に着手し、慎重に議論しなければなりません。
仮に現皇太子が天皇の座に即位したら、世の中はどう変化するのでしょう。皇太子徳仁親王は、これまた僕と同世代なのですが、皆さんよくご存知の通り、宮内庁とあまり関係がスムーズではありません。言いたいことをはっきりおっしゃるタイプです。一般に皇室の方々は、学生時代から今上天皇はハゼ、秋篠宮文仁親王はナマズ、昭和天皇はウミウシといった生物の研究などを専攻し、研究者でいらっしゃいます。それは僕が思うに、行政と関係のない分野を専攻として選ぶことにより、公権力を持たない象徴天皇であることを明確にするためだと思っています。
ところが皇太子徳仁親王は歴史を好み、学生時代に学習院大学で中世の日本における天皇と民衆の関係を研究してきました。天皇がいかにあるべきかを、真正面から、直球勝負でぶつかっていかれたのです。同じ頃に活躍した網野善彦教授の歴史観は、主に天皇制の誕生から各時代におけるその役割と構図、「直属隷民」と言われる身分の存在など、いわば異形の王権といった角度から日本史を解き明かしています。中世史まで学ばれた徳仁親王の天皇制についてのお考えは、現代の形式的なものよりずっと深く突っ込んでいるものと思われます。
平成の時代はもう飽きてきました。昭和生まれの僕ですが、そろそろ次の年号に期待したい気分です。その際は今上天皇がことあるごとに口にされている、憲法を守るという姿勢、先の大戦への深い悲しみと反省、戦争を二度と繰り返してはならないという強い決意は、次の世の天皇陛下にもしっかり受け継がれることを、心から期待します。
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※平成8月8日追記:陛下から「お気持ち」が公開されたので、新たにブログを書きました。併せてお読みください。
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