オバマ大統領の広島訪問では解決しない残念な現状
G7伊勢志摩サミットが終わった5月27日、アメリカのオバマ大統領が被爆地広島を訪れる予定になっていることを、今月10日にホワイトハウスは発表しました。サミットの方はこれといった目玉になるテーマが無く、ろくな成果をあげないだろうと僕は最初から諦めているので、オバマ大統領の広島訪問の方に着目しています。
戦後70年、広島・長崎に原爆を投下した当事国であるアメリカ合衆国の大統領が、被爆地を公式に訪れることは、ただの一度もありませんでした。それどころか終戦当時のニュースでは、GHQによる「プレスコード」(メディアの検閲)がしかれていて、1952年のサンフランシスコ講和条約まで7年間にもわたり広島・長崎の惨状について関わることは、新聞も放送も一切報道できなかったのです。それから比べると、オバマ大統領の広島訪問は画期的な進歩を見せた、象徴だといえるでしょう。
もちろん謝罪に来るわけではありません。アメリカは当時の原爆投下について「戦争を早期に終決させるためには必要な正当行為だった」としていますし、今回、日本政府も広島市も謝罪は求めていません。僕もそれでいいと思います。事実あの頃の日本軍は「最後の一人まで戦う」決死の方向に走っており、終戦の詔の中でも、この新型爆弾が終戦を決意するきっかけになったと述べられています。核兵器が膨大な無差別殺人と後遺症をもたらす非人道的な兵器であったことは間違いありませんが、投下の理由については歴史的にも謝罪を求める理由はありません。安倍首相はお返しに真珠湾を訪問する意向を示していますが、そういう日米外交が最大のテーマではないので、ちょっとずれている気がします。
最大のテーマは、世界的な核兵器の絶滅に向けて、どれだけ大きなインパクトを与えられるかです。今現在もNPT(核不拡散条約)やCTBT(包括的核実験禁止条約)などで核兵器を減らす方向にありますが、いまだにアメリカには1万5000発もの核兵器があります。ソ連との冷戦時代の6万発に比べれば大きく減少したものの、今でも全世界を何十回も滅亡させることのできる量です。
国際条約に逆行するように、NPT以降に核保有国となったインドやパキスタンなどの国々や、新たに核実験をして核兵器を持とうとする北朝鮮のような国もあります。反核兵器の理念がどれだけ世界に浸透しているのかを考えると、非常に残念なものがあります。アメリカの次期大統領選で共和党から立候補するドナルド・トランプ氏など、「北朝鮮の核兵器に対抗するべく日本も核兵器を持てばいい」などと発言する人が人気を集めている現状を見ると、悲観的にならざるを得ません。
もう一つ残念なことは、明らかに使用を禁ずるべき核兵器が、「非人道的な兵器」の定義に含まれていないという現状です。毒ガス兵器や対人地雷などは、非人道的な兵器とされているのに、なぜこんなにも悲惨な大量破壊兵器である核兵器が、それに当てはまらないのでしょうか。今回のオバマ大統領の広島訪問をきっかけに、核兵器の絶対使用禁止をあらためて明示すべきです。
最後に残念なことは、広島を訪問してくれるのが、大統領退任間際のオバマさんだということです。広島の平和記念資料館には、僕も何度も訪れていますが、レポーターを連れて行ったら泣き出したほど、インパクトの強い展示がなされています。訪れれば誰もが胸につまされるものがあります。せっかくオバマさんが目覚めてくれても、あと数ヶ月の任期です。僕はできれば、アメリカ合衆国の大統領が新しく就任したら、最初の訪日で広島を訪問することが習慣になるべきだと思っています。自分の国が持っている武器がどんなものか、しっかり把握しておくのは、大統領の使命だと言えるでしょう。
今回の広島訪問による「実感」と「驚き」をオバマ大統領がどのように言葉にしてくれ、各国のマスコミがどのように報道してくれるのか、期待を持って見守りたいと思います。
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