明らかにおかしい自民党草案の緊急事態
昨年11月に、ISによるパリの同時多発テロを受けて、オランド大統領が、緊急事態を宣言し、ブリュッセルのテロの影響か。昨日、緊急事態の3ヶ月の延期がニュースになりました。EUは現在、ISの深刻な脅威に突きつけられています。緊急事態は、チュニジア、マリ等でも宣言されました。
私は、昨年11月に、自民党の草案の「緊急事態が必要なのでないか」と迷いが出ました。しかし、それは本など調べるにあたり、私の安易な発想だと結論に至りました。何故、安易な発想だったのでしょうか。自民党の草案の第98条「緊急事態」に以下、整理してみました。」。(「自民党の憲法改正草案にダメ出し食らわす!」小林節、伊藤真、合同出版、p116-122、注)より
自民党と民主党の憲法の勉強会に出ている弁護士の伊藤真さんによると、 緊急事態の位置づけは、「立憲主義(国の権力が暴走しないように、主権者である国民を守るためのもの)を守るために、戦争に巻き込まれた際に、立憲主義を一時的に止めるもの」なのです。
草案の第98条と現行憲法の第9条は裏腹です。現行憲法には緊急事態はありません。第9条1項で戦争を放棄して、さらに2項は、憲法学者の樋口陽一さんによると、「陸軍その他の戦力を持たないところまで踏み込んで、規定を置いたのです」。また「9条の背景は、その主権者である国民が戦争することはない、とはいえない。だからこそ、その場合を想定してあらかじめ国民自身を縛っておこうというのが、現行憲法の9条です」。
今は特に、ISのテロで欧米が深刻な脅威を突きつけられ、ISの狙い通り、パニックに陥っています。EUは一瞬で全体主義になるような殺気だった空気があります。ただ、日本の過激組織がISとの親和性はなく、日本でIS関連組織を立ち上げる土壌はありません。しかし、日本で懸念されるのは、今年のG7伊勢志摩サミット、2020年のオリンピック、また国際空港でのテロです。
草案の第98条の話に戻ります。伊藤真さんによると「緊急事態は主に戦争を意味しています。自然災害を緊急事態を入れている国は、ドイツとポーランドだけです。そして、一番の問題は、第98条の最後に「その他の法律で定める緊急事態」。これでは、何が緊急事態が無制限に定めることができてしまう。緊急事態宣言で、権力を内閣総理大臣に集中させ、人権を制限できるのがどういう場面なのかということ自体を、法律に丸投げ。こういう憲法はあまりないですね」。
「東日本の大震災で起きたような混乱は、憲法、法律の問題ではなく、行政の運用の問題だった。廃棄別処理、災害対策基本法の条文を見ると、車をどかすことも含めて、自治体の権限でいくらでもできるんです。それを行政の現場の人間が、知らなかっただけです」。(整理終わり)。
そもそも安倍首相は現行憲法の立憲主義を守れていません。主権者である国民が守られていない状況、東北の被災地の方、ハンセン病の患者の方がいます。首相に緊急事態宣言で全権委任にできるわけありません。極端な話365日、緊急事態の宣言が出る可能性だって否定できないのです。憲法学者の小林節さんは、自民党(または民主党)に憲法を教えて、「憲法とは国民大衆が権力者たちを縛るためのもの、守らせるものだ」、と教えていました。無教養の自由で作られてある、立憲主義と逸脱してある草案に仰天しています。草案の第98条だけでなく、前文、他の条文もひどいです。「戦後、最初に出た草案は日本の恥」として、歴史の教科書に載りたいのでしょうか。
注)「自民党の憲法改正草案にダメ出し食らわす!」は自民党の草案に赤字で採点してあり、そこだけでも読みやすいです。
ysugie
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自民党草案の緊急事態では、本当は「令状の無い捜索差し押さえや逮捕」をしたいのだろうけど、残念ながら、起草した人が不勉強だから、草案でも変更されていない第三十三条(逮捕に関する手続きの保証)、第三十五条(住居等の不可侵・・・裁判所の令状が無ければできない)に違反することができない。
緊急事態法(仮)に令状無しの逮捕や捜索を定めると憲法違反で無効になる。
もちろん憲法違反の旨をもってする「異議申し立て」や「警察や国防軍の不法侵入・占拠禁止の仮処分」はたぶん認められるだろうから、民間の建物や所有物を恣意的には使用できない。法人格を有する地方公共団体所有の物件も同じ理由で「拒否」ができる。
草案第二十九条(財産権)に「公益及び公の秩序」が優先するように書いてあるのに、実は裁判所の令状無しには何もできないことになっている。いくら民法を改正しようと「緊急事態法(仮)」を制定しようと、自らの改正憲法に違反し無効という間抜けさである。
法律の中の法律(法律大王)たる憲法にかかる粗雑さは許されず、「GHQの押しつけ」がけしからんというモチベーションで「日本人が作った憲法」がこの程度ということは、起草者の国語と論理能力は、敗戦直後占領下の日本人の計り知れないプレッシャーと屈辱の中でなお発揮された同じ能力との差に落胆するしかない。
「言論=言葉による論理」に鈍感なものが政治をすることは、「万機公論に決すべし」とした「ありがたき(!)明治天皇のお言葉にも反する劣化である。
緊急事態条項が実際どのように働くのかを感じてみたい人は、公職選挙法買収、政治資金の横領問題の渦中の人「田母神もと航空幕僚長」のような金の使い方が容認される条項だと思えばよい。
武力紛争が起きれば、予算を国会を通さず使い放題と思っていると思う。草案九十九条;
「内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い」というのは田母神風金銭感覚が通じるということである。
草案;
第十八条 何人も、その意に反すると否にかかわらず、社会的及び経済的関係において新たを拘束されない。
2 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
には、草案九十九条第3項でも「最大限の尊重」をするように定めているが、「国の機関」に協力するよう求められた地方公務員が、「それは憲法18条で禁じられた苦役だ」として拒否したらどうなるか。地方公共団体の長が同じ理由で協力できないと言い出す事態も想定できる。
草案第十二条を読めば、「公益及び公の秩序」が優先することがわかる。
しかし肝心の「緊急事態に」わざわざ「最大の尊重」を持ち出したおかげで、わけがわからなくなっている。
緊急事態条項を書いた人と、草案のその他の部分を書いた人が別人であること、しかもお互い意思の疎通を欠いていることが強く推認される。
緊急事態条項は戦争などが起こった時に「立憲主義を守るために一時的に立憲主義を停止する」すなわち国会で議論していては時間的に間に合わない特殊な状況を回避するマーシャル・ローです。三権分立も無視した、いわば憲法の自殺条項ですから、すみやかに立憲主義に戻るのが常識です。ドイツを除く欧州ではこの常識が生きています。ドイツはワイマール憲法の苦い教訓から、緊急事態を極めて限定的にしています。戒厳令はいったん発令されると内閣総理大臣が立法、司法、行政の全ての権限を一元化し、法律(憲法さえも)無視した超法規的措置を取ることが出来ます。徴兵制も可能です。このように、ゆめゆめあってはならない状況を作り出すので、内戦状態にでもならない限り必要はありません。そもそも自然法による超法規的措置ですから、明文化する必要はないと考えます。もし草案の通り明文化するなら、国会前で大勢がデモ行為をしたらそれだけで「公共の秩序」が乱れたとして、軍隊が鎮圧に出動するかもしれません。
熊本大地震でも、自治体と自衛隊、国の連携協力はもとより、被災地住民やボランティアの整然とした協力体制が組まれるのに、「緊急事態」でもろもろ自由を縛ることのどこにメリットがあるのだろう。
緊急事態の宣言主体及び執行者を都道府県知事にすれば、ずいぶん「安心感」がありそう。
都道府県知事が必要な財政的措置や国への協力要請をして、国の機関は断れないようにする。複数の都道府県にまたがる場合は、関係する知事による互選で最高責任者(執行官)を決める。しかし重要な事項は知事間の合議による。
おおさか維新はたぶんこの案なら賛成するだろう。
Amazonで「憲法改正」を捜してみたが、自民党草案と、産経新聞草案と、似たり寄ったりの「右翼的」草案しか見いだせなかった。これでは、議論が「改憲か護憲か」という内容に立ち入ることが一切ない、不毛な水掛け論に終始することは仕方が無い。
結果、憲法を云々する人が、現行憲法も読まなければ、自民党草案も読まない、まして自分なりの改正案も考えないとすると、いったい何が問題かわからない。
「(GHQの)押しつけ憲法だから無効だ・自主憲法制定」という、法秩序を無視した暴論がなされることになる。
改憲論者は、ぜひちゃんと「自民党草案」を読んで各条文が及ぼす影響を考えて欲しい。
また自民党も野党時代の鬱屈した精神で承認した「草案」を考え直して欲しい。あの草案がどれほど「法律の頂点である憲法」として不適切であるかは、日々法案審議している国会議員(かなりの人が弁護士資格を持っていよう)ならわかろうというものだ。
「あれではいくら何でもも、政権政党として恥ずかしい」という議員が多数いて当然だと思うのだ。