クロ現「追跡 “出家詐欺” ~狙われる宗教法人~」やらせの真相
週刊文春で騒がれているNHKクローズアップ現代の「やらせ」疑惑であるが、僕の直感では「やらせ」ではなかった。あるいは「やらせ」で撮影したシーンがあっても、全体から見ればわずか。すなわち再現シーンに「再現」とダブらなかった程度で、文春の言っているような佐村河内守事件並みの捏造では無かったと思うのであります。一昨日4月3日にNHKが調査委員会を開いたので、真相はやがて明らかになるでしょうが、とりあえず今の時点で僕の感じていることをば、記しておきます。
そもそも「出家詐欺」とは、ーーー 出家すれば戸籍の名前を変更できる仕組みを悪用。 多重債務者を次々と出家させて別人に仕立て上げ、多額の住宅ローンをだまし取る手口。それを取材したクローズアップ現代が、去年5月14日にNHKで放送された。
週刊文春によれば、ーーー「 出家詐欺」のブローカーを演じてほしいと依頼されたとする男性が証言したという。事実なら大問題なだけに、国会でも取り上げられる問題に発展した。
というNHKと文春の対決ですが、まず文春側を見てみましょう。
- 文春の記事は、告発してきたブローカー役をやらされたという男性の証言のみを根拠にしている。
- ブローカー役の他に、多重債務者、住職、不動産業者など多くが関わっているが、彼らへの取材が不足している。
- 追跡取材してネタにすればいいのに、それをしていない。
- 最も悪質なのは住職の三浦氏であり、そっちを追求すべきなのに、それをしていない。
というのが文春側を見た時に感じた感想。
一方、NHK側を見てみると、やはり「やらせ」ではないという感触を僕は受けています。普通、報道局の作るクロ現の場合は、大勢の記者でわーっと取り掛かって一気に作り上げることが多いのですが、今回の番組でも名前が出ている署名記者だけでも、大阪局の野本勝記者、京都局の法花直毅記者の少なくとも二人の記者が、ナレーションやスタジオで出演しています。
- 野本と法花の二人の記者が関わって、同時にウソをつきとおす(グルになる)なんてできるとは思えない。
- そもそも自分の顔出し、名前出しの番組で、捏造なんて危険なことを企むとは思えない。
- 事件そのものは実在したものであり、それを隅々まででっち上げたとはとても思えない。
- 偽ベートーベン事件の直後であり、誤報には皆が慎重になっていたはず。
- 起こりうるとすれば、関西ローカルで作った番組の資料映像を、再現映像と知らずに使った可能性。
以上が、今の時点での雑誌やネットを見た限りでの印象です。僕の予想通り本当に「白」ならば、文春の取材は極めで雑なものであったと非難されることになるでしょう。あるいは「グレー」(不適切な再現映像の使用)という可能性も大いに考えられます。僕はグレーな「やらせ」については、それがフェアに使われていれば、それほど重い罪ではないと考えています。
カメラを向けるという行為自体が、非日常空間を作り上げる行為であり、その前でしゃべるということは非日常体験、つまり素のままではないということになるからです。農家のおばちゃんを一人インタビューするだけでも、おばちゃんが「ちょっと待ってて」と言って口紅をつけてくることがあります。それだって厳密に言えば、素のままのおばちゃんじゃないおばちゃんを、あたかも素のままのおばちゃんだと表現したと言えるからです。そんなことに目くじらを立てる必要はありません。
さて、今回の「出家詐欺」クロ現は、番組がよく出来ていただけに、シロであってほしいものです。それじゃあシロ現?
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4月6日追記1:問題の番組のサイト(全編あり8分ほど番組が見られます)※現在はみられません。
追跡 “出家詐欺” ~狙われる宗教法人 – NHKオンライン
4月6日追記2:問題の番組が扱った事件とは
借金を重ねる多重債務者が僧侶になったり、養子縁組したうえで戸籍の名前を変え、 住宅ローンの融資金を騙し取ったとして、滋賀県大津市の寺の住職ら3人が詐欺の疑いで逮捕されました。 詐欺の疑いで逮捕されたのは、滋賀県大津市長等1-2-1の宗教法人「定光坊」の住職、三浦道明容疑者(48)と大阪府寝屋川市の会社員、高尾道眞容疑者(54)ら3人です。 警察によりますと3年前、もともと眞という名前だった高尾容疑者は、借金があってローンが組めない状態だったため、 住職である三浦容疑者の寺で得度して僧侶となり、高尾眞から道眞に改名しました。 その後、高尾容疑者は京都市内の自営業、森岡保容疑者と養子縁組。 森岡道眞として金融機関にローンを申請し、融資金3,000万円を騙し取った疑いがもたれています。 (詐欺事件当時のMBSニュースより)
4月6日追記3;この事件を扱っているブログ(関西のほうが情報がありそうです)
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4月9日追記:NHKの調査委員会が中間報告書を出しました。
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4月28日追記:NHKの調査委員会が最終報告書を出しました。
意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造 につながるいわゆる「やらせ」はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱 する「過剰な演出」や「視聴者に誤解を与える編集」が行われていた。
と結論づけています。僕としては「やらせ」が無かったことにホッとしましたが、あらためて事実確認の重要性や、取材源を絞って行う匿名報道では、厳しいチェック体制が必要なことを実感しました。
「クローズアップ現代」報道に関する調査報告書(PDF 341KB) |
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ysugie
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BPOの判断は厳しいものでした。
番組がお粗末極まりないものであったことは、言うまでもありません。しかし同時に自民党の介入に対しても、自主・自立の立場から表現の自由・言論の自由を守るべく、釘をさしたこと。他の報道事業者に対しても、萎縮しないよう声をかけたことは、さすがはBPOだと見直しました。