佐村河内守なる人物にまんまと騙されたシクミ
聴覚障害を持つ天才作曲家だと誰もが信じていた人物が実は作曲などしておらず、耳も普通に聞こえているペテン師だったという今回の事件には、それこそ我が耳を疑うほどショックを受けた。
僕自身、この人物についてはさほど詳しくないので、その点についてはこの記事を読んでくれた方々に逆に教えていただきたいくらいで申し訳ないのだが、マスコミがなぜこの人物に騙され、佐村河内氏をヒーローにした事実誤認ドキュメンタリーまで作ってしまったのか? その理由については自分なりにきちんと検証しておきたいのでブログを書いております。
普段はお涙ちょうだい系のドキュメンタリー番組は殆ど見ない僕が、たまたま見てしまったのが、昨年3月31日に放送されたNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家〜」という番組である。被爆2世で聴覚を失った作曲家が、東日本大震災の被災者の少女と心を通わせるストーリーには、思わず心を揺さぶられたものだ。心に傷を負ったもの同士が苦難を乗り越え、互いに交流を通して生き抜く姿には、勇気づけられさえした。
だがそれが先日2月5日のニュース、翌日の実際に曲を書いていた作曲家新垣隆さんによる告白により、佐村河内氏についてはまったくの事実誤認、ニセモノ作曲家であったという事実が発覚した。耳も聞こえていたというから驚きだ。番組が根底から覆ってしまった。
真っ先に僕の頭の中を飛び交ったのは、僕のあの時の感動を返してくれ〜、という怒りよりも、「なぜ?」「絶対にありえないはずなのに?」「いったい何がおこったのだ?」という多数のクエスチョンマークであり、この謎はなんとしても解消したい、真実を知ってすっきりしたい、という強い欲求であった。それは自分自身が番組制作に携わる立場の人間であるからかも知れない。
取材対象に騙されたまま、嘘を見抜けず、とんでもない番組を作ってしまうなんて。
一歩間違えば明日は我が身である。そのメカニズムを把握しておかなければならない。
僕たち放送に関わる人間は、新人時代に取材の際「裏はとったのか?!」と徹底的に叩き込まれる。裏を取るとはその取材内容が事実であることを確認するために、直接当事者とコンタクトして必ず一次情報で裏付けをとることだ。新聞や雑誌の受け売りの情報では二次情報であるから、ネタとして使えないというのが常識だ。
とりわけNHKスペシャルなどの場合は、徹底的に事実関係を確認し、綿密な取材を重ねることによって念には念を入れて放送を出している。複数の信頼できるリサーチャー、ディレクター、プロデューサーが協力して何段階もの入念なチェックを行う。騙されるなんてことがあるはずがない。そう信じてきた。今まで。もちろん自分自身も肝に銘じて仕事をしている。
それがなぜNスペのスタッフともあろうものが、まんまと騙されてしまったのか。それは佐村河内氏の嘘が小さな嘘ではなく、主人公である佐村河内氏本人による本人についてのあまりにも壮大な嘘であったこと。これが話を頭っから信じてしまった最大の理由であろう。本人であるから完全な一次情報である。裏をとれ、といっても、耳の不自由な人、それも身障者手帳まで持っている取材相手に対して、「失礼ですがあなたは本当に耳が聞こえないのですか?」などとは尋ねられるわけがない。既に大作曲家として名をなしている人を相手に「あなたは本当に自分で曲を書いているんですか」などと失礼な質問を投げかけることができるリサーチャーはいないだろう。
だから僕は、この番組のスタッフを責める気分にはなれない。もし自分が担当であったら同様の過ちを犯さない自信があるのか、と尋ねられたら、答えはノーである。小さな嘘を見破るのは簡単である。だがいったん佐村河内氏を信用して、それを前提に番組を作り始めたのなら、むしろ取材相手との信頼関係を築き上げることに注力するのが番組制作の現場だ。その大前提の前に想定外の大きな嘘があった今回のようなケースの場合、それを見破ることは極めて困難だ。
今後の再発防止策について局の首脳部は問われるだろう。だが決定的な打開策など存在しないような気がする。日々細心の注意を払って事実確認に努め、言われ続けてきたことだが完全に裏を取り、真摯に番組作りに取り組む。この当然の努力を積み重ねる以外に、今の僕には思いつくアイデアは無い。
ただ佐村河内守なる大ペテン師が出現したことによって、我々は思いもよらぬところに落とし穴が存在することを学んだ。世間の評判だとか相手の身分などにとらわれず、常に自分の目と耳を研ぎ澄まし、常に白紙の状態から自分の五感のみをたよりに判断する。この基本姿勢を見失わないようにしよう、と僕はあらためて思うのであります。
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ysugie
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一応共犯者ということになるのかもしれないが、新垣隆さんのことは憎めない。
こちらから記者会見の全文が読めます。(本文中のリンクからも)
http://www.huffingtonpost.jp/2014/02/05/ghost-writer_n_4734967.html
それよりこんな事態を引き起こす、日本の音楽業界ってどうなっているんだろう、とそちらの方に疑問が残ります。
裏を取ることの第一は、本人の言ってることの裏を取ることででは。
うそが大きいほど見抜けないというのは分かります。玄人をだます黒サギですね。
じせんさん、その本人の言ってることの裏を取るというのが一番難しいんですよ。
重度の身障者手帳を発行するにあたって、医者も行政も見抜けなかったんです。
やっかいですね。
ほらね、見ました?今日の彼の会見。責任感の片鱗もない。「嘘つきがウソだという」矛盾は絶対に解決されないんです。
ピッチャーノーコン、バッター大振り、守備ざる、しかも賭け草野球で選手の誰も笑っていない試合を見せられているような不快感。
この人は一生嘘つき人生を送る人なんだな、と悲しい気持ちになりました。